Dance to Death:死に舞 on the Line

Music and Game AND FUCKIN' ARRRRRRRRT 今井晋 aka. 死に舞(@shinimai)のはてなブログ。

Dischan Media:海外ビジュアルノベルが抱いた一つの夢 1

いつの頃か、きっかけも忘れたが、私は一時期から海外ビジュアルノベルに興味を持つようになった。ビジュアルノベルという日本特有の表現形式が海外に伝播したということ自体、興味深かったし、Christian Loveのようなクリティカルな作家が生まれてきたことも興味深かった(ここでの「ビジュアルノベル」というジャンル名は正確には日本で言われるところの「ノベルゲーム」というくらいの意味である。正直、言えばこの用法には国内と海外での若干の概念のズレがあるが、ここではそれは置いておく)。

さらに言えば、私が初期に触れた海外ビジュアルノベルが実際のところ非常に高水準であったことも、興味を持つ大きなきっかけになった。その点ではDischan Mediaの存在が大きい。類まれなる才能が集結し、シナリオ、イラスト、音楽、UIすべてにおいて最高クラスのビジュアルノベルを世に問いつつも、一瞬のきらめきを残すまま消え去ったグループ(同人サークル?)だ(後年 Mahou Armsで復活しました!!やった)

商業作品としてはKickstarterのプロジェクトとしてリリースされた未完の『Dysfunctional Systems』のEp1しか残っていない。

 

そのため、彼らの活動を今後知る人は少ないだろう。特に日本人にとってはほとんど歴史の残らない小さな事件かもしれない。このエントリーの目的は少しでも彼らの活動に興味をもってもらい、英語圏におけるビジュアルノベルが抱いた一つの夢を共有してもらうことにある。

 Juniper's Knot:処女作で見せつけた圧倒的な才能

とはいったものの、実際に彼らの活動を事細かく紐解くのは困難だ。公式サイトにあった情報の大部分は、ある事件と共に消されてしまい、メンバーも散り散りになっている。ここで記述するのは私の個人的な思い出と、現在でもアクセスできる情報から再構成された彼らの軌跡の一側面だ。

彼らの活動が最初に世に知られるきっかけは、Juniper's Knotである。少なくとも私はこの作品で彼らに触れたのである。

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本作はWin/Mac/LinuxそしてiOSでリリースされている。私がプレイしたのは有料のiOS版であるが、他のプラットフォームは無料でダウンロードできる。言語は英語の他に有志翻訳で6ヶ国語に翻訳されているが、残念ながら日本語はない。辞書と格闘しながら読む必要があった。

しかしそれでもイラストレーション、音楽、UIの質は一瞬で伝わった。これは素晴らしい作品だと。なんとか理解した物語も短編ながら非常にうまいストーリーテリングだ。むしろ短編という長さを意識したクオリティコントロールがなされており、無料のゲームとしては最高級クラスのものであることは間違いない。

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イラストレーションは見ての通り、やや厚塗りだが日本のキャラクターデザインに近いスタイルだ。ただし立ち絵と調和した背景は昨今の日本のビジュアルノベルでは珍しいのではないだろうか。この素晴らしいアートワークを仕上げたのはDoofmestことSaimon Ma氏。長い間、ファンとして彼を追う私だが、未だに謎めいた存在の彼だがどうやら本職はコンセプトアーティストのようだ。3Dで描かれたハイスペックな画像には彼のビジュアルノベル(やエロを含む二次創作)活動とは異なった一面が現れており、彼が天才的なアーティストであることは一目瞭然である。(追記:彼がKatawa Shoujoの原画メンバーの一人であったことは後で知った。海外オリジナルビジュアルノベルの成立においてKatawa Shoujoが果たした役割は大きいようだ。)

 

音楽はCombat PlayerことKristian Jensen氏。この後も一貫してDischan作品に音楽を提供している。本作では雰囲気に合わせたメルヘンな音楽を提供している。通常はDAWでダンスミュージックを作っていることの方が多いが、Dischanではあくまでもゲームに合わせた作品を提供している。

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そして物語とスクリプトを手掛けるのが、Dischanの主要メンバーのTerrance Smith氏。彼は本作ではたった2名の1場面だけというミニマルなセッティングだけで巧みに物語を展開している。正直なところ、日本のビジュアルノベルに比べると場面転換が少なく、非常に思弁的というか、まるでプラトンの対話篇のように思える。ただこれは彼の持ち味の一つであり、大きな落ちや驚きよりも、じっくりとした会話を読ませるという演劇に近い雰囲気を持つ。さらにUIのセンスも抜群に良い。選びぬかれたフォントに無駄のない構成。作品に素晴らしい統一感が生まれる。

思えばこの時点でDischanの才能は遺憾なく発揮されていた。ただこれが小さなプロジェクトであったからこそ、ここまで統一の取れたの作品を出せたのかもしれない。この作品以降の彼ら活動をそれほど明るいものではなかったのだから…

(読みたい人がいたら続く)