Dance to Death:死に舞 on the Line

Music and Game AND FUCKIN' ARRRRRRRRT 今井晋 aka. 死に舞(@shinimai)のはてなブログ。

Milkoiに恋をして

彼の音楽を聞いたきっかけはもう覚えていないが、新型コロナ最中の夏の夜にこのEPを何度も聞いていた。

milkoi.bandcamp.com

おそらく権利関係か、ジャケットは当時と違っている。当時はアイスを食べている少女の絵が描かれていた。

Milkoiについて知っている情報はかなり少ない。彼は韓国のトラックメーカー/プロデューサーであり、アジア圏のいくつかのアーティストとコラボをして、主にEDMやFuture Bassのトラックをネット上でリリースしていた。ポップで聞き馴染みの良いメロディーでありながら、意外性のある楽器のセレクトが面白い。ときおり歪んだギターやノイズなどを混ぜたミックスは、ネット上の(Kawaii)Future Bass系のアーティストの中でもどこか純粋無垢とした魅力を持っていた。ボーカルものの多くは日本語の歌詞であるが、どうも韓国の歌い手を使っているようだ。

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2021年頃からピアノを主体としたインストを手掛けることが多くなった。Bandcampでも一種の習作のようなリリースが多くなっており、その変化には興味を持っていた。もともと、いわゆるMidtempo的なEDMも多く作っていたので、このようなチルアウトな方向性も不思議ではない。

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後にこの方向性が『DEEMO II』へのフィーチャーリングという形で日の目を見る。いや、むしろ『DEEMO II』のために、ピアノインストの試行錯誤をしていたのかもしれない。いずれにせよ、このピアノインストへの挑戦によって、彼は別の次元のアーティストに羽ばたいたのは間違いない。

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いやもちろん、この後も彼は様々なコラボレーションのもと、ダンス/ポップ系のトラックを数多くリリースしている。それらはすべて素晴らしいものだ。ただ単独名義で出された作品の多くは、ピアノインストを基調とした爽やかで青く澄みきったサウンドで、これまでの作品とは異なる次元の普遍的な美しさを持ったものだ。

milkoi.bandcamp.com

Bandcamp上では自らeasy listeningというタグを貼っている。確かに耳馴染みの良いインストゥルメンタルであることは間違いない。だが、単に聞き流して楽しむ以上のエモーショナルなサウンドが伝わってくる。楽曲のタイトルやアートワークからは、彼が一貫して「青春」をテーマにしていることは間違いない。

milkoi.bandcamp.com

一見、単なるセンチメンタルにも思えた。ネット上にあふれる日本のアニメへの憧憬。そういう部分はもちろんある。何しろ彼について知っているのは、ゲームやアニメが好きな韓国のトラックメーカー、ただそれだけだったのだ。

2022年の10月。Milkoiは兵役義務のため、活動を一時停止することになる。韓国のアーティストであれば、それは珍しいことではないだろう。とはいえ、今までネット上で追いかけていたアーティストがこのような形で活動停止になるのは、初めての体験でショックは隠せなかった。そして、彼が描いてきた青春というテーマが切実なものであったことを思い知ることになる。そして、彼の音楽の繊細さと無垢さがどこから生まれていたのかがなんとなく理解できる。

インターネットで音源を追いかける行為の中に突如現れる現実の楔。それは残酷でいながらも、音楽への理解を助ける縁であることは間違いない。この音楽を届けている背後には、当たり前だが人間がいたんだ。

ファンとしてはありがたいことに、2024年の4月までの兵役期間中、彼は録り溜めた音源を予約公開している。複雑な気持ちではあるが、彼が復帰後に何を作るかはこれまで以上に楽しみだ。