Dance to Death:死に舞 on the Line

Music and Game AND FUCKIN' ARRRRRRRRT 今井晋 aka. 死に舞(@shinimai)のはてなブログ。

プロデューサーとディレクターについて

この違いは経験論から知っている人は多いとは思うが、特に日本では誤解しやすい文脈があるので、わざわざ説明する価値はある。おおよそクリエイティブな仕事に関わっている人(広い意味ではすべてのビジネスはクリエイティブだ)は意識したほうが良いロールだと思われる。

結論から書くと、プロデューサーとはあるプロジェクトのビジネス面での責任者であり、ディレクターとはクリエイティブ面での責任者である。

これ自体は非常にシンプルな話であるが、そもそもプロジェクトのビジネス面とクリエイティブ面を明確に分離するのは難しいため、いまいちわからない人も多いだろう。例えば、キャスティングは映画においてビジネスとクリエイティブ両方に関わるが、予算的制約とマーケティング的な意味合いが強いため、最終的にはプロデューサーの権限が強くでる。

このような根本的な議論とは別に、プロデューサーとディレクターの違いをわかりにくくするいくつかの文脈がある。

そしてどちらかといえば、プロデューサーのほうが誤解を招きやすい存在だ。ディレクターに関しては「監督」という日本語があり、主に映画監督からの援用として理解しやすいと思う。つまり何かの制作を取り仕切る人である。対して日本人の「プロデューサ」に対するイメージは様々だ。それはこの言葉が使用される文脈で実際に異なるからだ。

まず音楽産業における「プロデューサー」が存在する。音楽業界における「プロデューサー」とは、ある意味テクニカルタームであり、通常のプロデューサーとは異なる。それは楽曲を制作(プロデュース)する人という意味であって、他のジャンルではおおよそクリエイターやディレクターにあたるのだ。いわば音楽プロデューサー=映画監督なわけだ。なんで、こうなっているのかはよくわからない。でも実際に英語圏での定義(ここではグラミー賞の定義)などを見れば、そうなっている。

The person who has overall creative and technical control of the entire recording project, and the individual recording sessions that are part of that project. He or she is present in the recording studio or at the location recording and works directly with the artist and engineer. The producer makes creative and aesthetic decisions that realize both the artist's and label's goals in the creation of musical content. Other duties include, but are not limited to; keeping budgets and schedules, adhering to deadlines, hiring musicians, singers, studios and engineers, overseeing other staffing needs and editing (Classical projects).

日本人的にはプロデューサーとして思いつく人物は小室哲哉つんく秋元康とかだと思う。実際に彼らは音楽作曲したり、作詞をしたりしており、その程度の差はあれ、クリエイティブな決定や判断を下している。でも彼らは、映画業界のようなプロデューサーではなく、どちらかといえば、ディレクターである。もう割り切って言えば、音楽プロデューサー=映画監督といって良い。

(では、音楽における映画プロデューサー的な役回りは誰なんだという議論がありうる。これまた厄介なことに音楽にはレコード会社に所属するディレクターというのが存在して、彼らが予算を管轄しているため、映画でいうプロデューサーなのだ。)

次にアイドルゲームなどで登場するプロデューサー、通称Pというやつだ。この言葉は90年代以降の音楽プロデューサーブーム(つまりは小室哲哉つんく)によって形成され、「アイドルマスター」などのゲームで定着したと思われる。実際にゲームをやってみれば分かる通り、彼らは「音楽プロデューサー」ではない。つまり、作曲や作詞、スタジオミュージシャンアサインといったクリエイティブな判断や制作をしていないようなのだ。じゃあ、アイマスのPってなんだと言えば、ほとんど芸能マネージャーのようなことをしている。アイドルをスカウトして、育てて、管理しているのだから。

ここからさらにややこしくなるのは、このアイドルゲームのPと似た、ボカロPもまた通常のプロデューサーではないということだ。ボカロPの場合は実際に作曲・作詞を含めたクリエイティブな制作を行っているため、音楽プロデューサーであり、映画ではディレクターにあたるロールである。

これらの言葉の文脈によって、日本語の「プロデューサー」という語は非常にわかりづらくなっている。本来的な意味はクリエイティブなプロジェクトのビジネス面を担当するロールであるが、上にみたとおり、音楽では実制作にかかわり、アイドルゲームではマネージャーのような仕事をそう呼ぶ場合がある。でもそれらはどちらかといえば、特定の文脈における話であって、本来のプロデューサーは繰り返しになるが「クリエイティブなプロジェクトのビジネス面を担当するロール」である。