誰得ゲームレビュー2:サウンドトラックが世界を作る『Lone Survivor』
Jasper Byrneというゲームクリエイターをご存知だろうか。インディークリエイターの中では有名な彼だが日本ではイマイチ知名度はない。それもそのはず代表作の『Lone Survivor』はローカライズされていないからだ。実は私もまだ通してプレイしていない。このコーナーはプレイしてないゲームについても勝手にピンポイントで語るので今回は『Lone Survivor』を扱いたいと思う。
謎の伝染病が蔓延したポストアポカリプスの世界。生きているものはほとんど見当たらず、ただゾンビのようなモンスターから逃げる他がない。初期の『サイレント・ヒル』に影響を受けた本作は2Dドット絵のサイドスクロールという点をのぞけばありがちなアドベンチャーだろう。
もちろん、カルト的にヒットした本作。そのストーリーが多くのものを魅了した(らしい)。自分のつたない英語能力が素晴らしいナラティブを破壊することを恐れた私は途中でプレイを投げ出してしまった。しかし、そんな私でもこのゲームが描く雰囲気の一部が稀有なものであることはこの音楽からだけでもわかる。
枯れたクランチギター、4度(5度)のループ超シンプルなコード進行、穏やかなシューゲイザーロック。まあ別にそこらのインディーバンドが作っても珍しくない曲だが、これがゾンビもののアドベンチャーゲームのサウンドトラックであることが驚きだ。しかも2Dピクセルアートというスタイルの。
この曲を聞いたとき、この曲のために用意された場面、演出、ストーリーがあると知って、これは真剣に取り組むべきゲームだと思った。まあその結果、腰が重くなってまだプレイしていなんだけど。
結局、何かといえば、本作はアートなんである。最近のインタビューでも彼ははっきりと主張している。
商業的な判断に動機づけらた商品というよりも、「アート」を作ろうと決めている。
"I am determined to try (and fail if need be!) to make ‘art,’ rather than products, things motivated by commercial considerations."
そして2Dのピクセルアートですら、予算や自分の能力不足ゆえの「美的選択」であって、特に「レトロゲーム」に思い入れがあるわけではないようだ。
こんな彼のバックグラウンドは上のインタビューでわかるとおり、予想以上に「アーティスト」だ。ドクター・フーの脚本家の父を持ち、ZX SpectrumやAmigaといったシーンに触れ、90年代末のドラムンベースのシーンで活躍したDJなのだ。日本でレジデントDJをしていたころもあり、その時、アニメーター/アーティストの森本晃司と出会った。
そんな彼がゲームを作り出しのは2000年後半になってからのようだ。いくつかのフリーゲームのリリースを経て、その才能は『Lone Survivor』で花開く。既にアーティストであった彼がゲームをアートとして捉えたことは興味深いし、実際そのストーリー、アート、サウンド、演出を見れば彼の意気込みはわかるのだろう。
この後、ゲームクリエイターとしての活動はなりを潜め、インディーの大ヒット作でありカルト作となった『Hotline Miami』のサウンドトラックを提供するくらいしか表立った活動はしていなかった。
しかしながら、彼の提供したトラックはどのトラック以上にも『Hotline Miami』の世界観をはっきりと描いている。それもそのはず、Cactusと彼は以前から交流があり、レフンの『ドライブ』にハマったのも二人の交流の結果であったようだ。
まあこういうわけで、Jasper Byrneという人物は極めて興味深いのであるが、最近になってようやくTwitterとか更新して、生存確認したからこのブログを書きました。またゲームも作ってくださいね。