BEST ALBUMS 2012
基本的に過去を振り返るのが邪魔臭くて仕方がない人間なので、こういうことをするのは珍しいんです(音楽について振り返るのは嫌いなのではなく、やり始めると終わらないとかが問題で)。ですが、今年は大学で非常勤の講義をするので、その時の自己紹介用にこういう去年のベストとかを最初に示すのもいいかなとか思ってやってみます。
ただ結局、セレクトがマニアックすぎると受講者にはなんら有意な情報にならないのではないかと、いろいろと問題が頭をかすめますが、気にせずGO!(ちなみに私のオールタイム・ベストはこちらにリストがあります。基本的には変わってないかな?いや一部変更したいところありますが、それはまたこんど。)
あ、あとちなみにこれは「私が聴いた2012年のベスト」であってリリース時期とは関係ないです!そもそもリアルタイムに音楽を(ほとんど)追ってはないので…。あとこういうのって1位から書くのがいいのか、10位から書くのがいいのか迷う。
1位 Monomate 『Negative Emotions/Positive Outlook』
リリース:2012年
フォーマット:デジタル・ダウンロード(無料)
最初はこれだろ!主観客観を顧みず、昨年リリースされた音源で、私にもっとも衝撃を与えた一作。詳しくはここで書いた。当初はそのあまりのノイジーさに「こんな音楽付き合っておれん!」と思ってたけど、iPhoneで何度かリスニングして耳が慣れたというか、「ヤヴェ、これ歴史的傑作だろ!」というPeetの誇大妄想が感染した様子。
2枚組で超大作なんだけど、ポストNintedocoreを果てしなく突き抜けたチップサウンドが徹底的にコンプされたインダストリアルとチルウェーブ系の楽曲が2つにまとまっている。ともかく、聴け!未来の音楽がここにある!
2位 Mission of Burma 『Signals, Calls, and Marches』
リリース:1981年(リマスター2009年)
フォーマット:CD
ボストンの伝説的なバンドのリイシュー。去年再結成したり、ドキュメンタリー映画など撮影されるほど、今なお影響力のあるバンド。日本では知名度は低いが、サイモン・レイノルズの『ポスト・パンク・ジェネレーション』では結構、大きく扱われ、その実験精神などが評価されている。
個人的には80年代からのボストンのシーンは大好きで、Galaxy500のディーン・ウェラハムがバンド結成時に作ったミックステープがきっかけで気になっていたバンド。アルバム自体も傑作!これぞ現在のUSインディーシーンの礎の一つ。ハードコアを基礎としながらもキャッチャーなメロディとプログレッシブなコードワークが特徴だ。
Mission Of Burma - Not a Photograph
こちらドキュメンタリーのPV。昨年はいろんなドキュメンタリーが見たかったけど日本では公開されないよーーー。
3位 Alabama Shakes 『Boys & Girls』
リリース:2012年
フォーマット:ストリーミング
去年の新春あたりはこれをかなり聴いていた。まあCDも買わず、Bandcampのストリーミングで聴いていたのですが(すみません、いつか買います)。彼らを知ったきっかけはボナルー・フェスティバルでのパフォーマンスなんだが、日本ではかなり人気のないと思われるサザンロックをここまで現代的な形に昇華したのには驚いた。
すげえコブシがはいった女性ボーカルも素晴らしいし、ドライなドラムとギターの録音も素晴らしい。単なる楽曲レベルではなく、作品が示すレコーディングのコンセプトも明快だ。ルーツ音楽があるって本当に羨ましい。日本人ではなかなか真似できないなこれはと。
4位 Jim Guthrie 『Sword & Sworcery LP - The Ballad of the Space Babies』
リリース:2011年
フォーマット:デジタル・ダウンロード(Humble Bundleから)
個人的に2012年は北米ユースカルチャーとビデオゲームについて考える年であったわけで、中でもインディーゲームから大きな影響を受けた。インディーゲームのサントラは素晴らしいもの多く、こちらのコラムでも取り上げたのだが、とりあえず一番聞いたか、もしくは音源を購入したものとしてJim Guthrieを。
カナダのインディーゲームデベロッパー、カピバラゲームズのiOS向け(現在はAndroid向けもリリース)ゲーム『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』のサウンドトラック。Jim Guthrieはカナダのインディーロックバンド出身のアーティストでバンドもやってたが、本作のサウンドトラックを通して有名になった感がある。
音楽単体も素晴らしいのだが、「アーティスティックな表現としてのゲーム」という点でゲームをやった方がやはりいい。というかゲーム自体が音楽作品だといってもいいものだ。
5位 Algernon Cadwallader 『Parrot Flies』
リリース:2008年
フォーマット:ストリーミング
これまた個人的なことだが、2012年はEMOリバイバルの年だった。90年代後半から日本のロックを聞くようになった私は、日本におけるEMOのパイオニアたちの音源を好んで聴いていたのだが、同時期の北米シーンはわりとスルーしてしまっていた。
だから、彼らAlgernon Cadwalladerが 90年代のEMOリバイバルだとしても、その元ネタになっているキンセラ兄弟たちの活躍自体も後追いで楽しでいるところだ。しばしば「Kinsellacore」と呼ばれるその美学は、ロックにおける情動性をボーカルの形で激しく訴える。ほとんど泣き叫ぶような歌声は90年代に既に出来上がっていたわけだけど、日本ではメタルよりの「スクリーモ」的発声はあっても、こういう形はまだ少ないように思える。
あとこれは大きな話だが、パンク/ハードコアの美学はその「歌声」の発展として再検討する必要がある。しばしば、見逃されがちというか、一般人には聞き苦しいだけのその歌声には本当は非常に幅広い表現の可能性があり、パンク/ハードコアのアーティストたちの創造性が発揮された舞台であったのだ。
Algernon Cadwalladerのアルバムは去年を通していろいろ聞いたけど、とりあえずこのアルバムを上げておく。
6位 Dartz! 『This is My Ship』
リリース:2007年
フォーマット:ストリーミング
7位 And So I Watch You From Afar 『And So I Watch You From Afar』
リリース:2009年
フォーマット:ストリーミング
これまた旧作をBandcampでリスニングしているというフリーライダーっぷりを発揮している…いやここであげたアーティストはいつかなんかの形でお金払うから!
北アイルランド、ベルファストのマスロック。名前が普通の単語の羅列で覚えづらいけど、このデビューアルバムの勢いはすごいよね。もうアドレナリン爆発って感じ。変拍子でもなんでもこのテンションで演奏したら壁に穴あけられるという具合の素晴らしい快作。そして最高のレコーディング。
アドレナリン全快のマスロックだけど筋肉むきむきな感じよりもどこかスタイリッシュなのがアメリカじゃないかんじ。すごくいいよなー、インストだけどたまに声入れちゃうあたりもすごくかっこいい。ぶっ通しで聴くと最後の曲で鼻血出せます。
8位 Lee Ranaldo 『Between the Times & the Tides』
Between the Times & the Tides
Lee Ranaldo
リリース:2012年
フォーマット:ストリーミング
普通に去年、リリースされたフィジカルのものでは最高傑作じゃないの!買ってないけど(涙)。金ないんだよ。ソニック・ユースのアルバムは大体、新譜で買っているからリー許して!確かリリース直後は無料でどっかに公開されていたような気がする。
ということでソニック・ユースのリー・ラナウドのソロである。これがマジで素晴らしい出来。サーストンとキムの離婚とか、何かとファンにとっては心良くないことがあったが、もうリーがソニック・ユースでいいです(笑)。というか『 A Thousand Leaves』以降の後期(オイ!)ソニック・ユースはもうリーが主人公なのです。実際にリーのボーカル取っている曲が好みだった私にとってこのアルバムは本当に大好きです。(ならば買え。ハイ買います!いや、アナログで欲しい…)
9位 City Cop. 『Seasons』
リリース:2011年
フォーマット:ストリーミング
ランキングを作るにあたってパッと思いつかなかったけど、去年はこのアルバムというかEPはかなり聞いたなー。オハイオ州のポストEMOバンドというか、たぶんBandcampでたまたま見つけたからマイナーなバンド。
すげえかっこいいけどね!アコギを使ったEMOとか斬新な発想でドラムも通常のロックとは異なるリズムを刻む。そして、かなりセンチメンタルなボーカル。歌詞はわからんけどとても良い感じ。
10位 Random 『Mega Ran』
リリース:2007年
フォーマット:ストリーミング
去年はいくつかゲームのアニバーサリーがあったけど、確かロックマンは25周年で海外でも話題になってた。その過程発掘したのがMega RanことRandom。海外ナードラップのたぶんかなり重要人物。
黒人とビデオゲームというテーマはいろいろ考えたし、Frank Oceanみたいなメジャーにヒットした事例もあるけど、個人的に顔が黒いロックマンの絵を見た時はすごく衝撃を受けた。そして2000年代の北米サブカルチャーが日本にはやはり伝わってない感じがした。
このRandamさん、最初は完全にアマチュアで確か中学校の先生をしていたというすごい経歴。2作目に当たるこのMega Manトリビュートアルバムですごく有名になり、カプコンの正式の許可を得てサンディエゴのコミコンでパフォーマンスをしたらしい。
この後もかなり旺盛に活動し、ロックマンからファイナルファンタジーまで主に日本のゲームネタのラップをリリースしまくっている。彼のようなアーティストは本当にBandcampの恩恵を得ているだろう。
総評
なんかこう振り返ってみると、やっぱ俺ってロックリスナーなんだと再確認(笑)。あとメインの音楽サービスがBandcampになったせいでほとんど国内の音楽への関心が失われた。これはちょっとなんとかしたい。
しかし時間がかかったな、この記事…。