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Dance to Death:死に舞 on the Line

Music and Game AND FUCKIN' ARRRRRRRRT 今井晋 aka. 死に舞(@shinimai)のはてなブログ。

【思い出の一枚】コミカルでセンチメンタル/ナンバーガール 『SCHOOL GIRL BYE BYE』

 

SCHOOL GIRL BYE BYE
NUMBER GIRL ナンバーガール
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ナンバーガールを知ったきっかけは今でもはっきり覚えている。それは洋楽ロック専門のクロスビート誌での日本のバンドを紹介する連載コラムだ。そのコラムで「シルバーロケットを演奏していたころのソニックユースピクシーズを合わせたようなバンドが福岡にいる」というような感じで紹介されていた。アメリカのインディーロックを聞き漁っていた高校生の私はその一文に触発され、本作を手に取ったというわけだ。

時代は90年代後半、それまで日本のロックなどバカにしていた生意気な高校生だった私だが、本作には衝撃を受けた。いや衝撃というより、むしろ安心したといったほうが適切かもしれない。アメリカのインディーロックに憧れながらも、日本語のロックが可能であることをはっきりとナンバーガールは示していたからである。当時、バンドで演奏していた自分の方向性がナンバーガールのこのアルバムによって勇気づけられたと感じたのである(偉そうだが本当だ)。

一聴してUSインディーの影響ははっきりとしている。コードとリフを主体としたバッキング、ささくれだったシングルコイルのギターの音、サウンドとしてはまさしく初期から中期のソニックユースピクシーズのようだ。ただ録音の質はあまりよくなく、特にベースの音はうまく拾われていない。その後のアルバムではベースをアンプシミュレーターで拾うことでサウンド面での改善が見られたが、個人的には今でも本作が一番好きである。ザラつきの多い録音がいかにもインディー臭いという意味でも、個人的な思い入れの点でも。

ソングライティング部分においても本作は他のアルバムと比べるとオーソドックスだ。その後のナンバーガールがダブ的な音響や変拍子的なアンサンブルを目指して行ったのに対し、本作の楽曲はすべてエイトビート。シンプルなコードワークとリフの上に、向井秀徳のボーカルが自信無さげにエフェクトされて乗っている。歌詞の内容もどちらかと言うと青臭い。3曲目で自ら指摘しているように「センチメンタル過剰」なのだ。

だがこの朴訥とした楽曲と青臭い歌詞はなぜか当時の私の雰囲気に非常にマッチしていた。アルバムタイトルや歌詞の要所要所に「女子高生」や「少女」といったワードが入るが、それらは現実の女子高生や少女に向けられたものというより、メディアで喧伝されているイメージを戯画しているように思える。今考えるとよく分からないが90年代は「女子高生ブーム」であって彼女たちの生態に社会学的・週刊誌的な言説が過剰に蓄積されいたわけだが、向井が描くのはもっと現実味のない、というかほとんど漫画的なイメージだ。

「センチメンタル過剰」において女子高生に「雨上がりの放課後かい?」と呼びかける姿は、現実的には変質者(笑)としか呼べないが、向井の歌はシュールなギャグ漫画を思い起こさせる。個人的にはうすた京介が『すごいよマサルさん』で描いてたへっぽこでいて狂気に満ちていた日常を強く喚起させる。もちろん、それらは向井自身のフリーハンドのイラストが添えられた歌詞カードなどによっても強調されるし、眼鏡をかけた冴えない青年としての彼のイメージによっても印象づけられる(ナンバーガールの初期の向井のアダ名は「のび太」である)。

こういったコミカルでいて青臭く、センチメンタルな雰囲気はその後のナンバーガールからは消えて、向井秀徳のイメージもより無頼的な雰囲気を帯び始める。でも、本作のソングライティングにはこのイメージはピッタシだ。「センチメンタル過剰」のどこかマヌケな冒頭のギターソロ、「イギー・ポップ・ファンクラブ」のダイナミックなバッキングは90年代の狂気と普通が混ざった日常をうまく表現している。さらに「Omoide in my head」や「我起立唯我一人」といったバラードナンバー(?)では、ギターノイズが当時あった(私の?)葛藤と高揚を彩る。それらの歌詞はソニックユースピクシーズ、スーパーチャンクが持っていたインディーロック特有の爽やかさと切なさといった背景に、90年代の風俗を切り取ったキャラクターとコマをマンガにように添えているようなのだ。

もちろん、歌詞や世界観以外にも、リフやギターソロ、そしてアヒトイナザワのドラムフィルはその後の日本語のロックに決定的な影響を与えている。だが音楽としてはより複雑となっていたその後のアルバムに比して、本作の魅力はUSインディーのサウンドにコミカルでセンチメンタルな歌詞を日本人の肌感覚に合うように付け加えたことが大きいと思う。よりプログレッシブなナンバーガール後期のアルバムと比較すると、歌詞とサウンドの間の結びつきが強く感じられることが魅力なのだ。